黒幕
Xさんが職場を去って漸く訪れた平穏な日々。
私は今年入った同じ係の女性Iさんと、最近仕事帰りによくカフェでティータイムの時間を過ごしている。
彼女は私よりも二回りくらい年上。親子ほど年の離れた彼女は、おっとりとした上品な女性。私と同じくらいの娘さんが二人いて、この秋にほぼ同時に嫁がれるとのこと。
何かと波長が合うので、思っていることも同じことがほとんど。
Xさんがまだいたころ、IさんはXさんの言動に驚愕したそうだ。
私もびっくりした。同僚だからって目上の人にまでタメ口きくとか( ̄。 ̄;)
「1回で覚えてください」
「そんなことやらなくていいので、こっちを先に片づけてください」
「(目上の男性に向かって)それ持ってきて。違うって、その隣のやつ。はぁ? 何でわからんかなあ。もういい、自分でやる」
開いた口が塞がらなかったとか。挙げ句……
「前にも言いましたよね? やる気あるんですか?」
これにはさすがに穏やかなIさんもブチ切れた。
「ちょっと。いくら相手が新人でも、目上の人に向かってそんな口の利き方はないでしょう?」
彼女は上司に報告。
しかし……
「まあまあ、あなたはまだ入ったばかりだし、Xさんは悪気があってそう言ったわけじゃないから。あなたは大人なんだから、そんなに感情的にならないで。大人の対応お願いしますね」
とかわされたらしい。
上司もアホや(;´Д`)
「相談に行った私が悪者扱いってどういうこと?」と憤る彼女。
分かるぜ、私も前年度は地獄だったから。幸い当時の上司はとても親身に話を聞いてくださる女神のような人だった。カムバック プリーズ(ノД`)
そして、今年度の上司はイマイチ頼りなく、部下に判断を委ねるようなところもあるので、おかげでやりたい放題な人が野放し状態。
すでに立場が逆転している。
地獄絵図だ。
独身アラフォー女性Hさん。
よくXさんとつるんでおり、基本的に係も立場も越えて誰にでもフランクに接する社交的な女性。
Xさんが居なくなったとたん、水を得た魚のように頻繁にあちこち飛び回るようになった。
そして、やたらとIさんに食ってかかる。
「何回間違えれば気が済むんですか?」と嫌味を言うだけでなく、周囲に「Iさんがまたミスした」と言いふらす。
実際Iさんは、「また」というほど頻繁にミスはしていない。
ことある毎に、何か起こると一番初めにIさんが疑われ、事実よりも話が悪い方に盛られている。
I「ちょっとミスしただけであんなに大げさにみんなに吹聴して回って。しかも、尾ひれどころか背びれ腹びれまでつけて。係長に相談したら、利用者さんに間違った情報を伝えたわけじゃないから全然問題ないっていわれたのに。事実を捏造するなんて、どこまで卑怯なの?」
Iさんは行き場のない怒りに悶える。
Hさんが私達の係の人に、たびたび耳打ちをしている姿が見られるようになった。
「私思うの。すべての黒幕はHさんだって」
Iさんは「あの人が何もかも牛耳って、上司にまで取り込んで思い通りに動かしてる」と確信したように話した。
「人を取り込むのが本当にうまい人だね。上司にはいい顔して、自分を持ち上げてくれる人は可愛がる素振りを見せて。自分の思い通りにならない人にはフンッて子どもみたいにあからさまに悪態つく」
穏やかなIさんが、険しい表情で繰り返す。
「自分の手は汚さず、自分の意のままに騒ぎ立てる人を見てほくそ笑む。怖いねぇ」
実は私もそのHさんからはよく思われていない。
私もHさんのことをよく思っていないから別にいいのだが。
これまで何度か取り込まれそうになったが、悉く彼女の欲求を突っぱねてきたため、面白くないんだろう。
「Xさんも強烈だったけど、結局XさんもHさんのおもちゃだったんじゃない?」
Iさんは更に続けて言った。
「今まではXさんというおもちゃで遊んでいたけど、いなくなっちゃったから新しいおもちゃを探していて。で、自分の思い通りに操って、自分の王国を築こうとしてる。あの人なら自分の思い通りになるだろうとか、そういうのを見抜く力も持っているんだろうね。もっと違うことにその力使えばいいのに」
私達は絶対に取りこまれないようにしようね、といいながら、適度にガス抜きがてらティータイムを満喫。
Hさんの思い通りにはならない。
上司に思いを訴える機会は、現在うかがっている最中。
直属上司があまりに威厳がなさ過ぎて、中途半端に伝えてももみ消されそうな予感がしたので、
人事面談の際に切り札として管理職の前で暴露する作戦に変更。